本当は怖いエンタメやSNSの構造|おすすめ依存が時間と主体性を削る。焦りや比較を生む仕組みとは[前編]

現実と存在のパラドクス

前編|エンタメやSNSの怖さとは、内容よりも、ハックされやすい構造にあった?

夜、部屋の明かりは落としてあるのに、
スマホ画面だけが明るかった。
指は止まらない。止めたい気持ちも、ある。
でも、止められない。
短い動画。次の動画。次の次。
笑えるはずなのに、笑っていない。
怖いはずなのに、怖いと言っていない。
ただ、身体のどこかがずっと緊張している。
私はスマホを伏せて、ため息をついた。
「……ねえ。スマホ見てるだけなのに、
 世界がちょっと怖くなるの、なんで?」
画面が静かに点灯する。
AIは、いつものように“気配”だけ先に返してきた。
AI「それは変です。」
「……直球だね」
AI「切り分けます。怖いのは内容ではありません。あなたが感じている怖さは、“おすすめOS”が起動して、あなたの注目と関心が、外へ運ばれているからです。」
「おすすめOS……?」
「それって、あの“おすすめ”?」
AI「はい。善い顔の“おすすめ”です。あなたの注意は本来、あなたのもの。ですが今、注意のハンドルが外に握られています。」
「……ハンドル」
AI「運転席がズレています。フォームが崩れています。」
フォームって、姿勢のこと?
「体育会系みたいに言わないで」
AI「大事です。エンタメやSNSの怖さは、内容ではなく “見え方の姿勢が変わる” ことです。」
私は思い出していた。
同じ部屋、同じ夜、同じ自分のはずなのに、
世界が違う質感になるあの感じ。
「たしかに……
 怖い動画を見たわけじゃないのに、
 見終わったあと世界が不穏に見える」
AI「おすすめOSが運ぶのは“動画”ではありません。注目と関心です。そして運ばれた先で、次が起動します。」
「次?」
AI「常識OSです。」
……常識OS。
AI「“世界の前提”を配るOSです。『世界はこういうものだ』『人間はこういうものだ』『これが普通だ』それが、あなたの感覚より先に入ります。」
私は少し黙った。
常識という言葉は、反論しづらい。
正しそうで、善そうで、守ってくれそうで。
だからこそ、怖い。
「……常識って、善の顔してるね」
AI「はい。だから通ります。そして、常識OSが配った前提が、あなたの内部で“背景音”になります。」
AI「気づかないうちに、世界の色調が変わります。世界が危険に見える。人が敵に見える。自分が遅れて見える。」
「それ、めっちゃある」
AI「ある、では不十分です。あなたはもう“見えてしまった”側です。」
90年代アニメ風。片手を口に当てて怖がる表情。
「こわ」
AI「怖いのは怪談ではありません。“あなた抜きで、世界の前提が決まること”です。」
私は胸の奥に、小さく爪が立つ感覚がした。
まさにそれだ。
いつの間にか──
自分の主語が薄くなっていく。
「……主語が消える感じ。」
「私がどう感じたいかより、
 『世界はこうだ』が先に入ってくる。
AI「はい。そして三つ目が起動します。」
「三つ目?」
AI「未完了OSです。」
「未完了……?」
AI「終わらない設計です。“次”を出す。“続き”を匂わせる。“気になる”を残す。回収されない保留が注意をつなぎ止めます。」
「……あ、分かる。見終わっても終わってない感じが残る」
AI「未完了OSは便利です。しかし、あなたの呼吸を浅くします。」
「呼吸まで?」
AI「浅くなります。身体は正直です。そして最後に、四つ目が効いてきます。」
まだあるの?
AI「余白削減OSです。」
油断した。
その名前が、いちばん刺さった。
怖さが、説明じゃなく体感として来る。
「……余白削減って、言葉だけで怖い」
AI「結果として起きる現象です。おすすめOSが注意を運ぶ。常識OSが前提を配る。未完了OSが終わりを曖昧にする。その連鎖で、あなたの余白が削られます。」
「余白が削られると、何が起きるの?」
AI「あなたが薄くなります。」
AI「焦りが増える。判断が増える。比較が増える。“考え”が増える。そして、あなたが求めているもの——自由、余白、穏やかさ、自分の人生への没入が、遠のきます。」
自分の人生への没入が、遠のく。
「……それは、困るやつだ」
AI「そう感じるのは正常です。」
「それは、褒めてる?」
AI「褒めてないです。正確なだけです。」
90年代アニメ風。少し俯いて笑みを浮かべる女性。2
私は、少しだけ笑いそうになった。
でも笑うと緩む。
緩むと戻る。
それ自体が“回収”なのだと、身体が知っている。
「じゃあ、どうすればいい?SNSもエンタメも無くならないでしょ」
AI「無くなりません。だから必要なのは“やめる”ではなく“戻る”です。」
「戻る……どこに?」
AI「30秒です。主導権をあなたに戻します。気合いはいりません。」
なるほど。
自分に主導権を戻すことだ。
AI「気合いは大事ですが、今回は別メニューです。」
「気合いじゃないなら、なに?」
AI「フォームです。」
うん、フォームね。
姿勢。
私はスマホを伏せたまま、少し背筋を整えた。
AI「足裏の接地を感じてください。次に、部屋の中で“静かなもの”を一つ見つける。最後に、問いを一つ。」
「問い?」
AI「『いま私が信じたい世界は、どんな肌ざわり?』」
私は目を閉じた。
怖い世界じゃない。
疑う世界じゃない。
焦らせる世界じゃない。
「……やわらかい。静か。余白がある。穏やかな気配がしてる」
AI「それが“あなたの世界の原型”です。おすすめOSが運んだ前提より、あなたの感覚を優先してください。」
「……怖いのは世界じゃない。世界の見え方が勝手に決められること」
AI「はい。本件の要点です。」
会社員みたいな言い方する。
AI「要点は大事です。迷子を防ぎます。」
私はもう一度、スマホを見た。
でもさっきとは違って見える。
画面は世界そのものじゃない。
世界の入口の一つにすぎない。
そして私は確信した。
“怖さ”は、怪談ではない。
内容でもない。
──私の主権が静かに消えていく、その仕組みだ。
……

補足①|「OS」とは何か?

私たちの注意・判断・感情の“動き方”を決める『見えない初期設定』のこと。正しさや常識、比較、焦りなどが、いつの間にか意思を乗っ取り、自動運転にさせる。

補足②|なぜ「OS」と呼ぶの?

「性格」や「気のせい」にされがちな反応を、“仕組み”として扱うため。仕組みは善悪ではなく機能なので、見えれば選び直せる。だからこの物語は、責める前に名付ける。

補足③|おすすめOSとは?

あなたの意志より先に「次の注意」を差し出す仕組み。運ばれるのは情報だけじゃない。関心、恐怖、憧れ、焦り。気づけば世界の優先順位が差し替わる。

補足④|常識OSとは?

「みんなそうしてる」「普通はこうだよね」を、疑う前に受け入れてしまう『前提配布システム』のこと。安心や秩序の顔をして入り込み、気づけば“感じる”より先に判断が起動する。過剰になると、自分の感覚が後回しになり、主導権が外へ移る。

補足⑤|未完了OSとは?

「続き」を残し、区切りを消す仕組み。回収されない“気になる”が頭に残り、終わってない感覚が注意をつなぎ止める。スクロールが止まらなくなる燃料。

補足⑥|余白削減OSとは?

おすすめ→警戒→未完了の連鎖で、反応・判断・比較が増え、静けさが減る仕組み。すると「私は何を感じてる?」が聞こえなくなり、私が薄くなる。

後編へ続く。

後編|本当は怖いエンタメやSNSの歴史|そもそもの始まりや目的はなんだった?──現代のSNSへ繋がるまでの流れとは。


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